♢予想外のダンジョン落ち
色々な場所で遊び、時には魔物との戦闘も交えながら冒険を続けているうちに月日は流れ、俺もシャルも13歳になっていた。シャルは、ついに本物の剣を扱えるようになっていた。
「ねぇ〜。最近、低級の魔物とか魔獣の討伐、余裕だよね?」
「毎日、飽きずに森に通って討伐もしてるし、俺たちも少しは強くなったんじゃないかな」
シャルが本物の剣を扱うのに多少慣れてきたので、父親からも普段から帯剣して良いと許可が下りたらしい。それからは毎日、飽きずに森へ通って低級の魔物や魔獣を倒していた。
「だよね、だよね〜。今日は、少し違う所に行ってみない?」
シャルは、目を輝かせながら新しい場所への探索をしたいらしい。
「はぁ? ダメだって。まだ危ないって言ってるだろ」
ユウヤは、シャルの無謀な提案に釘を刺した。シャルが一度言い出すと、人の言うことを全く聞かないんだよな……本当に面倒だ。
「大丈夫でしょ。危なくなったら、ユウヤの転移があるしさ」
シャルは、ユウヤのスキルを頼りに、強気に迫る。
「はぁ〜? 危なくなったら、すぐに帰るからな」
ユウヤは、仕方なく折れることにした。
「分かってるってば!」
最近では低級の魔物や魔獣を倒せるようになっていたので、二人で調子に乗ってしまっていた。普段は近づかなかったダンジョンの近くまで来てしまっていたのだ。
「この辺に現れる魔獣は楽勝だね!」
「まあ〜低級っぽいしね。でも、この先はダンジョンがあるから中級の魔物や魔獣も現れるようになると思うよ」
「中級か〜楽しみかもー!」
ダンジョンの中は危険だとお互いに理解していたので、中には入らず、ダンジョンの近くをうろついていた。すると、突然シャルが視界から消えた。地底に落ちるようなシャルの叫び声が、地面の下から聞こえ、遠ざかっていく。慌ててシャルの気配に、無詠唱でバリアを張り、衝撃に備えた。
「キャァーーー!!!」
「シャルー!!」
ドカンッ! と、何かが着地したような音が鳴り響いた。シャルの無事を確かめるため、ライトの魔法で地底を照らすと、シャルの周りにウジャウジャと魔物や魔獣が大量にうごめいていた。低級から上級の魔物までがシャルを取り囲み、攻撃していてバリアが耐えきれそうにない。
「シャルー大丈夫かー!?」
「キャァーーー!」
シャルは悲鳴を上げ、そのまま気絶したようで声が聞こえなくなり、倒れて動かなくなった。
シャルを転移させたくても、シャルとの距離が離れすぎていて、今の俺のレベルだとキツイ。考えている間にもシャルのバリアが破壊されてしまいそうな状況だった。
自分にバリアを張り、そのまま地底へと飛び降りる。 とっさに思いついて、周囲の魔物たちの魔石を転移させ、アイテム収納に収めた。 魔石を奪われた魔物たちは、討伐されたも同然――その場に崩れ落ちた。
討伐によりレベルが一気に上昇し始め、 「レベルアップしました」の通知音が頭の中でけたたましく鳴り響く。 うるさい……それくらい、勢いよく上がっていった。
レベルの上昇に伴い、転移可能範囲も格段に広がった。 その効果で、さらに地底一帯にいる大量の魔物たちの魔石を一気に転移・回収。 そのたびに経験値が加算され、レベルはさらに加速度的に上がり続けていた。
やがて地底の岩場に着地すると、辺りには見たことのない魔物たちがうようよしていた。 中級、上級クラスの個体も混じっている。――もし正面から戦闘していたら、確実に死んでいただろう。 ……それに、あのバリアがなければと思うと、背筋が寒くなる。
はぁ……死ぬかと思った。あ、この魔物の死体の数はまずいな……えっと、低級の魔物を6体くらい残して、他の魔物の大量の死体を地中に転移させておくか。
俺の能力をシャルに知られたら、今回みたいな無茶な冒険や魔物討伐をしたがるだろう。色々と面倒なことを言い出しそうで怖い。
シャルを抱きかかえ、バリアを解除すると……彼女のワンピースのスカートが濡れていた……え? あ、えっと……どうしよう……。
「んっ……あっ、ユウヤ……わっ! な、何してるの? なんで抱きかかえ……あぁ〜。わたし……穴に落ちて……きゃぁ! 下ろして、下ろしてってばぁー! ご、ごめんね……あぁ……腕が濡れちゃってるよ……ごめん。ううぅ……はぅ……」
珍しくシャルが恥ずかしがっていて、顔を真っ赤にしてオロオロしていた。そして周りを見て我に返った。
「ん? あれ? 大量の魔物が……いなくなってる?」
「あ、それなら倒したけど? そこに倒れてるだろ」
ユウヤは、残しておいた低級の魔物を指差した。
「ん……? そんな見慣れた魔物で気絶しないよ……毎日見てて見慣れてるし。もっと見たことなくて、もっと上級の魔物で……ううん。何でもない……。それよりちゃんと腕とか洗ってよ……それ……」
シャルが目を逸らして、チラチラと俺の方を恥ずかしそうに見て言ってきた。
「分かってるよ」
「むぅ〜……なんでユウヤが顔を赤くしてるのよ!えっちぃ〜!ばかぁ……」
仕方ないだろ……好きな人のだし……エロいじゃん。
「助けたのに〜文句ばっかりだなー?」
ユウヤが呆れたように言うと、シャルは頬を膨らませて反論した。
「ん……ありがとって、お礼言ったーっ!」
外に転移した感じ……さっきまでギリギリだったはずなのに、転移をしても魔力の消費も微量だ。明らかに魔力量に余裕があり、莫大に増えた感じがする。それに許容人数、許容量と適用範囲が異常に拡大している感じだ。ここから家まで距離があるけど余裕で帰れそう。まあ、秘密だけど……。
「わっ。急に転移させないでよ……明るい外は恥ずかしいって……っ!」
シャルは、突然の転移に驚き、恥ずかしそうに叫んだ。
「恥ずかしいって最近まで一緒に水浴びしてただろ〜?」
ユウヤがからかうように言うと、シャルは顔を真っ赤にした。
「はぁ? 最近じゃないし……。10歳の時でしょ! ば、ばかぁ……それにワンピース濡れてるし……もぉ……」
シャルが恥ずかしがって俺に背を向け、文句を言っていた。
「久しぶりに水浴びして帰るか〜?」
ユウヤは、さらにからかい半分で提案した。
「水浴びはするけど、別々にね! ふんっ」
シャルは、プイと横を向いた。
「なんで怒ってるんだよ!」
「わ・か・ん・な・いっ!」
シャルは、逆ギレ気味に言ってきた。
♢変わってしまった関係 思い出したように怯えた表情で話してきたシャルは、話し終わる頃には表情を変え、顔を赤くさせていた。 まあ……あれは、怖かったと思うけど。シャルは俺たちをパーティだと思っていたのに、何の相談もなしなのか? 会いに来ないばかりか、他の男子と仲良く遊んでいて、今更「やり直そう」って言われても無理だろ。「冒険者になりたいなら、他の男子とパーティ組めば良いじゃん。仲良さそうだったろ。俺はアリアとパーティを組んでるし」 ユウヤが突き放すように言うと、シャルは泣きそうな顔で訴えた。「うん……知ってるよ。私も一緒に……。私は、前衛だしさ……力になれるよ。絶対!」 残念だけど、前衛は必要ないんだよな……むしろ、入られると動きにくくなると思う。 シャルが加わるとなると、支援魔法に回復魔法、それに援護魔法まで必要になるだろ? でも今のところ、アリアと一緒に魔物討伐してて、支援も回復も一度も使ったことがない。 それどころか、攻撃を受けたことさえ一度もない――そういう意味では、かなり優秀なパーティなんだ。 まあ、まだ低級の魔物ばかりだけどさ。「必要ないって。他で頑張ってよ……。一緒に遊んでた男子も、冒険者を目指してるんだろ?」 ユウヤは、シャルの目をまっすぐ見て言った。「え? そんなぁ……。別に、あの友達は暇つぶしで遊んでただけで……。ユウくんみたいに仲は良くないよ。一緒のパーティになろうとも思わないし……そこまで信頼はできないしさぁ」 シャルは、必死に弁解した。「いきなり何も言わずに消えたと思ったら、他の男子と仲良く遊んでるし。俺が上手くいきだしたら、やっぱり一緒にって無理だって。友達としては良いけどな。まあ……来年には、この村を出ていくけどね」 ユウヤがそう告げると、シャルは顔色を変えた。
♢無詠唱の力と新たな一歩 前衛は、詠唱時間を稼ぐための存在とも言われている。そのため、体力、防御力、そして敵を攻撃したり身動きを取れなくしたりするための押さえつける力が必要だ。前衛は最強のイメージがあるが、前衛だけのパーティは珍しく、中級レベルの魔物討伐がせいぜい一般的だ。前衛は支援魔法が無ければ、魔物や魔獣のランクが上がってくると、剣が通用しなくなってしまう。 魔術師の方は通常、低級の魔物討伐止まりだ。中級レベルの魔物相手に、逃げ回りながら詠唱ができるわけがない。魔術師が中級の魔物相手を押さえつけ、詠唱できるわけがないのだ。 だけど、俺たちは無詠唱なので、前衛は不要っぽいな。こっそりと転移をして人がいない場所で、上級魔法を無詠唱で放てるか実験したことがあって、成功しているし。 初パーティでの魔物討伐は、アリアの無詠唱を知ることができたし、何よりアリアとパーティを組めて嬉しかったので大成功だった。 ♢ギルド登録とシャルの再登場翌日……「ユウくん。さっきね〜魔物の討伐を友達に誘われちゃった。でも〜ユウくんとパーティを組むことにしたって言って、断っちゃった〜♪」 嬉しそうに笑顔で話してきて、褒めて欲しそうな感じでニコニコして見つめてくる。「アリアは、やっぱり人気があるんだな」 そんなアリアの頭を撫でて褒めてやり、パーティに入ってくれたことに感謝した。「そんなことないよ〜。多分ね、魔術師がいなくて仕方なくじゃないかな〜」 「他のパーティに行くなよ?」 「大丈夫だよ。えへへ……♪ わたしはユウくんと! って決めたしぃ」 アリアとパーティを組んでみて、何の不都合もなく楽しく魔獣や魔物の討伐練習ができた。だいぶ自信をつけたので、アリアの勧めもあって冒険者ギルドへ登録しに行くことにした。 ちょっと不安に思っていたけど……魔力測定やレベル測定を警戒していたが、そんなものはなかった。 この世界は、依頼を達成するとポイントが入る仕組みらしく、強さやレベルでランクが決まるのではなく、依頼達成の実績でランク
♢新しい出会いと予期せぬ仲間 翌日から、シャルが遊び、いや、冒険の誘いに来なくなった。 恥ずかしがってる……のか? それとも嫌われた……? いや、もしかして俺のレベルに気づいたとか――魔物の大量討伐がバレたとか……? はぁ……。 まあ、友達はシャルだけじゃないし、別にいいけどさ。 ……でも、シャルより仲のいい友達なんて、他にいないんだよな。 仕方なく村をぶらついていると、ふと視界の先に見覚えのある姿が入った。 家の前の道端に、一つ年下のアリアがぽつんと座り込んでいた。 手にした木の枝で、地面に何かを描いている。 小さく丸まった背中が、どこか寂しげで――まるで声をかけるのもためらわれるほどに。「アリア〜、暇そうだな?」 ユウヤが声をかけると、アリアは顔を輝かせた。「あぁ〜! ユウくんっ! わぁ〜いっ!」 駆け寄ってきて、抱きついてくるのが可愛い。アリアは魔法の覚えが良く、魔力量も多くて頭が良い。そのせいで、同じくらいの年の友達からは避けられていることが多く、一人でいることが多かったのだ。「ね〜ユウくん。一緒に遊ぼう?」「良いぞ〜」 シャルが誘いに来ない時は、アリアと遊ぶことが多く、すっかり懐かれている。いつも一緒に遊んでいると甘えてくるんだ。俺も、そんな甘えてくるアリアが可愛くて好きだ。それに、俺が魔法のレベルを合わせているのが、魔法の得意なアリアだ。大体の魔法の強さを参考に、俺の出力の基準を合わせている。 それにアリアは、魔法攻撃、防御、支援、回復と珍しく何でも使えて、低級から中級レベルの魔法を使いこなせる。周りの大人から一目置かれているせいか、友達から距離を置かれているんだ。優秀すぎるとこうなっちゃうんだな。「今日は、何をする?」「ん〜何でも良いよー。ユウくんに任せる〜」「アリアは魔法が得意だし、森に行って魔獣の討伐をしないか?」 ユウヤが提案すると、アリアは少し考えてから答えた。「……良いけど。森の奥までは行かないよ〜?」 うわぁ。なんだろう……。この安心できる感じ、新鮮で落ち着くな。いつもは、それが俺が言うセリフだし。「分かってるって。アリアとは初めて組むしな〜」 アリアとは、村の中にある広場か空き地で遊ぶのがほとんどで、討伐というか森に入るのは今回が初めてだ。だから、お互いの実力はまだ知らない。「うん」「お互いの
♢予想外のダンジョン落ち 色々な場所で遊び、時には魔物との戦闘も交えながら冒険を続けているうちに月日は流れ、俺もシャルも13歳になっていた。シャルは、ついに本物の剣を扱えるようになっていた。「ねぇ〜。最近、低級の魔物とか魔獣の討伐、余裕だよね?」「毎日、飽きずに森に通って討伐もしてるし、俺たちも少しは強くなったんじゃないかな」 シャルが本物の剣を扱うのに多少慣れてきたので、父親からも普段から帯剣して良いと許可が下りたらしい。それからは毎日、飽きずに森へ通って低級の魔物や魔獣を倒していた。「だよね、だよね〜。今日は、少し違う所に行ってみない?」 シャルは、目を輝かせながら新しい場所への探索をしたいらしい。「はぁ? ダメだって。まだ危ないって言ってるだろ」 ユウヤは、シャルの無謀な提案に釘を刺した。シャルが一度言い出すと、人の言うことを全く聞かないんだよな……本当に面倒だ。「大丈夫でしょ。危なくなったら、ユウヤの転移があるしさ」 シャルは、ユウヤのスキルを頼りに、強気に迫る。「はぁ〜? 危なくなったら、すぐに帰るからな」 ユウヤは、仕方なく折れることにした。「分かってるってば!」 最近では低級の魔物や魔獣を倒せるようになっていたので、二人で調子に乗ってしまっていた。普段は近づかなかったダンジョンの近くまで来てしまっていたのだ。「この辺に現れる魔獣は楽勝だね!」「まあ〜低級っぽいしね。でも、この先はダンジョンがあるから中級の魔物や魔獣も現れるようになると思うよ」「中級か〜楽しみかもー!」 ダンジョンの中は危険だとお互いに理解していたので、中には入らず、ダンジョンの近くをうろついていた。すると、突然シャルが視界から消えた。地底に落ちるようなシャルの叫び声が、地面の下から聞こえ、遠ざかっていく。慌ててシャルの気配に、無詠唱でバリアを張り、衝撃に備えた。「キャァーーー!!!」「シャルー!!」 ドカンッ! と、何かが着地したような音が鳴り響いた。シャルの無事を確かめるため、ライトの魔法で地底を照らすと、シャルの周りにウジャウジャと魔物や魔獣が大量にうごめいていた。低級から上級の魔物までがシャルを取り囲み、攻撃していてバリアが耐えきれそうにない。「シャルー大丈夫かー!?」「キャァーーー!」 シャルは悲鳴を上げ、そのまま気絶したようで声
俺は、前世の記憶を持ったまま転生した。 前世――地球と呼ばれる世界で、20代になったばかりの頃、俺は会社で猛烈に働いていた。 深夜まで残業をこなし、誰よりも早く出社しては翌日の準備や、後輩への仕事の割り振りに頭を使う。 その努力が認められ、チームリーダーにも昇進し、仕事も面倒だった人間関係も順調だった――あの瞬間までは。 一瞬の油断。交通事故に巻き込まれ、俺の命はあっけなく終わった。 ……頑張って生きてきたご褒美だったのか、それとも、ただの巡り合わせか。 理由は分からないが――俺は、新たな世界へ転生を果たしていた。 転生先は、魔法が存在し、魔物が闊歩する異世界。 しかも俺には、珍しいスキルが備わっているらしかった。 前世であれほど必死に働きながらも、死は理不尽で突然だった。 だからこそ今度こそ、与えられたこの希少なスキルと魔法を思う存分活かして、 最初から“スローライフでのんびりと人生を過ごしたい!”と、強く願った。 生まれた家は平民で、裕福ではないが貧しくもない、ごく普通の家庭だった。 自由に遊んでいても文句を言われることのない程度の暮らし――それが、正直ありがたかった。 俺が望んでいるのは、豪勢な暮らしでも、莫大な富でもない。 少しだけ働いて、趣味の時間を多めに取り、それなりに不自由のない生活ができれば――それで充分だ。 ♢幼馴染との日常 月日は流れ、この世界にもすっかり慣れてすくすくと育った俺は、毎日幼馴染の友人と仲良く遊び歩いていた。「ユウヤ、魔物の観察に行こうぜ〜!」「襲われるから危ないって!」「それは知ってるって! だからユウヤを誘ってるんだろー!」 毎回、こうして強引に誘われるんだ。危ないって言っているのに、全く聞いてくれない。一体何が楽しいんだろう?「毎回不思議に思ってたんだけど、なんで魔物とか魔獣の観察なんだ? 何が楽しいんだ?」 シャルロットは小さく首を傾げて、驚いたような表情で俺の顔をじっと見つめてきた。 ……逆に、俺のほうがその反応に驚くんだけど。 シャルのその顔――たぶん、自分が「面白い!」と思ったことは、俺も当然そう思ってるって前提でのリアクションなんだろうな。 無邪気というか、絶対的というか……こっちの戸惑いなんて、これっぽっちも想定してなさそうだ。「面白いかぁ?」「面白いの! 私、大きくなったら冒険